〝蝉の声 あゝ波の音 生ビール〟
こんにちは、三度の飯より夏が大好きな工事部 杉原です。
この句は、最高の夏休みの過ごし方を詠った句です。
これを写真にすると、
こうなります。
撮影場所は、沖縄のとある離島です。
蝉の声に囲まれて、時折打ち寄せる波の音を聞きながら飲む生ビール。
これに勝る物が他にあるでしょうか。
あ、ありました。
ジャイアンツが優勝を決めた時の乾杯ビールです。
これが一番でした。
しかし残念ながら今年は飲めなさそうですが…。
さて今回タイトルが「シーカヤックのススメ③」ですが、③なのにシーカヤックの事をまだ書いていません。
3回目にしてやっと本題に入ります。
まずシーカヤックとはどんな物かと言いますと、笹の葉の様な形をした舟で、漕ぐ道具はパドルと言って、手漕ぎボートの二本のオールを一本にくっ付けた様な物で漕ぎます。
沖縄へ行った時にたまにやる程度だったので、東京へ帰ってきてからもやりたいなあと思い、シーカヤックができる所をネットで探したところ、シーカヤック大会を見つけました。
コースは5kmで、〝ビギナーからアスリートまで誰でも参加できる〟と書いてあります。
ビギナーでも大丈夫って書いてあるから出てみるかと、軽い気持ちで仲間も誘って出る事に。
メンバーは、
・運動が苦手なMくん
・元野球部でスポーツマンのKくん
・見かけによらず運動神経がいい私の妻
と、私の4人です。
MくんとKくんはシーカヤックは2回目だったんですが、〝ビギナーからアスリートまで誰でも〟という言葉を信じて参加。
ところがこの大会、想像していたレベルとは大違いで、ちゃんとスクールで指導を受けた人しか出ちゃいけないレベルの大会でした。
そんな大会とはつゆ知らず、エントリーしちゃったわけです。
【本番2週間前】
案内状がグループ代表の私の所に届きました。
「あと2週間かあ」
とワクワクして案内状を読むと、参加資格のところに、
〝セルフレスキューができる事〟
と書いてあります。
セルフレスキュー??
なぁに、それ?
そんな事、最初の募集要項に書いてなかったけど?
頭が〝?〟だらけになり、取りあえずGoogleで〝カヤック セルフレスキュー〟を検索しました。
するとそれは、カヤックが転覆して海に落ちた状態(立ち泳ぎ)から、まずひっくり返ったカヤックを戻し、カヤックをよじ登って元に戻るという技術でした。
「こんなのやった事がないよw」
思わず心の声が口に出てました。
2週間前に言われてもなあ…
練習するカヤックもないし…
でも立ち泳ぎからカヤックに戻るのはやった事があるから、問題はカヤックをひっくり返すくだりだなあ…
あれ?こんな技、カヤック2回目のM&Kくんが出来るわけがない。
今さら「セルフレスキューができる事が条件だってえ」なんて言ったら怒られそうだ。
でも、もうエントリーしちゃったしなあ…
Kくんは運動神経がいいから、動画を見せたら意外と、
「あぁ、大丈夫ですよ。問題無いです」
ってなるかもなあ。
Mくんも、もしかしたら、
「大丈夫です。まだ2週間あるから練習しておきます」
ってなるかもしれない。
よし、ここはシラッと伝えてみよう。
2人にLINEしました。
「出場資格が〝セルフレスキューができる事〟らしい。あと2週間でこれを出来るようにしといて」
〝シーカヤック セルフレスキュー〟(ここをクリック)
すると2人から、
Mくん:「こんなの出来るわけないですよ」
私:「やっぱり?」
Kくん:「カヤック持ってないのにどうやって練習するんですか?」
私:「イメージトレーニング」
Kくん:「イメージトレーニングで出来る範囲を超えてる気がするんですけど」
私:「そんな事ないよ。毎日毎日イメージしてるとそのうち、〝あれ?俺前にやった事あったっけ?〟ってなるから」
Kくん:「ならないならない」
Mくん:「ボク死にます」
結局セルフレスキューは諦めて、転覆しない事を祈ることにした。
【本番当日】
会場のビーチに早く着きすぎて、受付の場所もまだ用意されていませんでした。
おそらくこのテントが受付だろうと思われる所に椅子がいくつかあったので、取りあえずそこに座って関係者の方が来るのを待つことに。
しばらくすると、独りのおじいちゃんが我々の目の前の椅子に座りました。
この人も出場するのかなあ?
70歳は超えてるように見えるけど。
〝老若男女楽しめる〟って書いてあったから出るのかなあ?
そんな事を考えていたら、30歳ぐらいの女性がおじいちゃんに近づいてきて、
「先生、お久しぶりです」
先生?学校の先生なのか?
少しして今度は20歳前後の男子が、
「お疲れ様です。先月の大会ではありがとうございました」
「おぅ、ちゃんとトレーニングしてるか?」
ん?カヤックの先生か?
その後も次から次へと挨拶に来る。
このおじいちゃん、只者ではないぞ?
共通しているのは、会話が全てカヤックの話題で、しかもかなり専門的な内容。
このおじいちゃんは、どうやらカヤックの先生っぽい。
そんな事を考えていると、今度はおじいちゃんが我々に話しかけてきました。
「どうですか、調子は。毎日漕いでますか?」
ま、毎日?
とても「沖縄に行った時ぐらいしか漕いでません」とは言えない空気。
更におじいちゃんは、
「そっちの彼は結構速そうだねえ」
と、Kくんに向かって話しています。
おじいちゃん、その人まだ2回目。
さすがにこのあたりで、〝ど素人が出る大会ではないのでは?〟と思い始めました。
後で調べて分かったんですが、このおじいちゃん、1964年東京オリンピックでカヤックの代表選手だったそうで、1972年のミュンヘン五輪では、強化コーチとして同行したそうです。
更に凄いのは甥っ子。
サッカーの本田圭佑でした。
本田圭佑が高校生の時、このおじいちゃんに「どうしたらプロになれる?」と相談をして、「練習ノートをつけなさい」と言われ実行したそうです。
それを本田圭佑がテレビで言ってたらしいです。(ネット情報)
それぐらい影響力がある人だから、いろんな人が挨拶に来るわけですよ。
どうやらこの主催者の会長がこのおじいちゃんみたいです。
なので〝ビギナーからアスリート〟のビギナーのレベルがそもそも違うんですよ。
この後、我々は出漕するわけですが、想像以上に大変なレースになりました。
【スタート30分前】
(アナウンス)
〝選手の皆さんは、カヤックをそれぞれ持って、波打ち際へ集まって下さい。ビーチに並んでるカヤックは、どれでも好きなものを選んでもらって結構です〟
ビーチのスピーカーから聞こえてきました。
並べられてるカヤックを見ると、、、ん?
いつも乗ってるヤツより幅が狭い。
こんなに細かったかなあ?
ま、いいか。
カヤックは結構重いんで(いつも2~3人で運んでます)Kくんと一緒に運ぼうと思い、どのカヤックにしようかと選んでいると、隣にいた選手が「ヨイショっと」と言ってあの重たいカヤックを1人で担いで行ったんです。
なんてパワーなんだ。
するとその隣の人も軽々と担いで行きました。
Kくんに、
「みんな凄いパワーだぞ。俺らはとんでもない人達を敵にしようとしてるんじゃないか?」
「凄いですね。俺ら場違いですね」
レースが始まってもないのにナメられちゃいけないと思い、
「Kくん、とりあえず俺1人で担いでみるわ。いかにも〝軽々と〟ふうで」
と言って、いかにも力を入れてない雰囲氣で、Kくんと雑談しながら若干半笑いの顔をしつつも実は思いっきり踏んばりながら心の中で(いっせーのーで、ふんっ)。
すると、なんと1人で持ち上がったんです。
いつの間に私にこんなパワーが…
いや、違う。
いつも乗ってるカヤックとは別物だ。
何でこんなに軽いの?
確かカヤックは重くした方が安定感がでると聞いたことがある。
そうか分かった。
あってるかどうか分からないけど、いつも乗ってるのはレジャー用で、安定感が出るように重たくて、今回のは競技用でスピードが出るように軽いんだ。
ということは、メチャクチャ安定感がないのでは?
若干の不安が過ぎりました。
(アナウンス)
〝では選手の皆さんはカヤックに乗って、スタート地点(200m位沖)へ移動して下さい〟
実は朝から気になってた事があって、今日は風が強いので波が結構高いんです。
今回のレースは20名が出漕する予定でしたが、この波を見て2人が棄権しました。
なので出漕は我々4人を含む18名。
う~~ん…、15位・16位・17位・18位を我々が独占する気がしてならない。
スタート地点までビーチから200mあるけど、そもそもMくんはスタート地点に辿り着けるのだろうか。
(2人乗りのカヤックしか乗ったことがないので、1人で漕ぐのは初めて)
まずMくんがカヤックに乗るのをサポートして送り出すか。
船尾を押さえて乗りやすくしてあげたんですが、なかなか乗れないんです。
Mくんは、
「なんか、、足がカヤックの中(コックピット)に入らないんですよ」
と言いながら、立ったりしゃがんだりモタモタしてるんです。
私も早く乗ってスタート地点に行かないといけないので、だんだんイライラしてきて、
「お尻上げちゃダメなんだよお」
とキツメに言うと、
「なんか、、前に乗ったやつより狭いんですよ」
そうかあ??
結局カヤックに乗るのに他の人の5倍ぐらい時間がかかってやっと乗れました。
そして私もすぐに自分のカヤックに乗ろうとしたら、コックピットに足が入らないんです。
あれ?
狭い。
気がつくとお尻を上げていました。
さっきMくんに〝お尻上げちゃダメだ〟って言ったばかりなのに…
コックピットが凄く狭いんです。
彼が言ってたのはこういうことか。
さっきはキツメに言ってゴメン。
そう思いMくんに目をやると、彼は5mほど沖で転覆してましたw
私は大爆笑しましたが、後で話を聞くと本人は死ぬかと思ったそうです。
なぜかと言うと、カヤックが逆さまになった時、あの狭いコックピットから瞬時に脱出できたのは奇跡だと。
無我夢中だったので、どうやって脱出したのかも覚えてないそうです。
Mくんの救助はスタッフの方に任せて、私はカヤックに乗り込み沖へと漕ぎ始めました。
「うわっ!」
つい口から漏れました。
メチャクチャ安定感が無いんです。
今まで乗ってたカヤックとは全く違います。
それに加えてこの波。
カヤックが軽いんで波の影響をもろに受けて、ちょっとでも油断すると転覆しそうです。
これではMくんが転覆するのも分かります。
腰から下でバランスを取りながら、やっとの事でスタート地点に到着。
(アナウンス)
〝全ての選手が揃うまで、少々お持ち下さい〟
少しでも前からスタートしようと思い、スタートラインのすぐ手前で待機していると、少しずつ波に流されていって、
〝みなさーん、スタートラインから出てますので下がって下さーい〟
と注意をされてバック。
待ってる間にまたジワジワと流されていって、
〝またスタートラインを出てますので下がって下さーい〟
こんな事が4~5回繰り返され、なかなかスタートしないので係の人に、
「あと何人待ちですか?」
と聞くと、随分前から1人の選手を待っているそうです。
その1人に心当たりがあるので、ジグザグに進んでくるカヤックの漕ぎ手を見ると、やっぱりMくん。
ワザと我々を焦らしてるのかと思うぐらい、くの字くの字で進んできます。
そして彼の周りには、救援ボートが張り付いてます。
スタート前から注目の選手になっていました。
ちなみに今大会のコースは、沖に2つのブイが浜と平行にあり、浜から向かって左のブイからスタートして右のブイへ向かい、折り返して左のブイへ戻る。(1往復が2.5km)
これを2往復した後ビーチに戻り、カヤックを降りて30mほど砂浜をダッシュしてゴールという感じです。
そして予定のスタート時間から遅れること20分。
ようやく全員が揃い、いよいよスタート!
3・2・1
〝プォーーーーン〟
エアホーンの音と共に一斉にスタートしました。
我々4人は転覆しないように進むことで精一杯。
あっという間に先頭集団から外れました。
そして波は8時(左後方)の方向から2時(右前方)の方向へ流れているので、浜の方へ流されると予想してたんですが実際はその逆。
ドンドン沖へ向かってしまうんです。
このカヤックにはラダー(方向をコントロールするプレート)が付いてないんで、パドルの漕ぎ方で方向をコントロールするんですが、沖へ流される(左へ進む)から真っすぐ進むには左を4回、右を1回ぐらいで調度いいんですが、そんな漕ぎ方ではスピードが出ません。
かといって普通に漕ぐと沖へ流されてしまう。
とにかくいろいろ試行錯誤しながら進みました。
なんとか1周目の折り返し地点を過ぎた時、向かい側からKくんが来るのが見えました。
「Kくん、Mくんどうした?」
「全然後ろだと思いますよ。それより杉原さん、なんかドンドン沖の方へ進んじゃうんですけど」
本来すれ違う時は、彼が私の左側を通過していくはずなのに、目の前を横切り沖へと真っしぐら。
ドンドン小さくなっていきます。
「杉原さーん、これどうしたらいいですかー?」
「Kくーん、そっち太平洋。戻った方がいいよー」
「いや、分かってるんですけど、どうやったら戻れ……………」
声は届かなくなった。
一方Mくんはどうしてるかというと、Kくんより一足先に太平洋へ出ようとしていた。
進行方向を12時とすると、スタート直後から10時の方角に進み始めたらしい。
本人は一生懸命右へ進もうとしたのだが、カヤックがどうしても言う事を聞いてくれなかったそうです。
しかし彼は、スタート前から救援ボートという強い味方を後ろに従えていました。
もうこれ以上沖へ行くと危ないという所で、救援ボートがMくんの前に回ってカヤックの船首を浜の方へ向けてくれたそうです。
〝これでコースに戻れる〟
そう思い最初のブイを目指しました。
が、気持ちとは裏腹に、今度はゴールに向かって真っしぐら。
必死でブイへ進路を変えようと頑張りましたが、どうしてもカヤックはゴールへ向かってしまうので、〝もういいや、このまま戻ろう〟と諦めたそうです。
そしてビーチまであと50mまで来た時、別の選手が背後から来ました。
その人はちゃんとブイを2往復してゴールへ向かっている選手です。
でもMくんがリタイアの選手である事を知らないので、必死に追い上げます。
ビーチで実況の人が、
『なんとデッドヒートです!』
ビーチでは観客が、「がんばれー」と盛り上がってます。
片方はリタイアなのに。
(実況)
『両選手頑張って下さーい。あと少しです!』
Mくんは〝リタイアなんですけど…〟と思いながらも、何故か頑張りました。
こうなると頑張らざるを得ないのでしょう。
(実況)
『後方からの凄い追い上げです。凄いです。とうとう並びました』
前にいたMくんが遅いだけなんですけど盛り上がってます。
そしてビーチに着き、あとは砂浜を30mのダッシュ。
カヤックを降りる時、係の人がカヤックを支えてくれたんでMくんは正直に、
Mくん:「あのー、僕リタ…」
係の人:「はい、走って走って」
Mくん:「あ、はい」
ダッシュしました。
この一部始終をKくんは海の上から見ていて大爆笑していました。
そしてKくんもゴール。
と思いきや、実は彼も2往復できずリタイア。
しばらくして、ちゃんと2往復してきた私がゴール。
ゴールラインにいる係の人に名前を告げました。
結果が気になりますが、まだ後ろに何人かいるので我々が15位~18位を独占ってことはないようです。
そしてビーチの実況は、
『最後の選手が帰ってきました。今大会の唯一の女性選手です』
私の妻でした。
棄権した2人というのは女性だったので、今回出場した女性は妻だけでした。
よくこの波の中で頑張ったと思います。
みなさんのあたたかい拍手の中、妻はゴールしました。
そして結果発表。
プレゼンテーターとして、朝我々の前に座っていたおじいちゃんがステージに上がり、1〜3位の表彰がされました。
これで終わりかと思いきや、この後飛び賞が発表されました。
5位、10位、15位に賞品が出るそうです。
それが最初に分かっていたら…。
普通にやっていれば15位だったのに、生半可 頑張ってしまったんで予想では12位か13位。
ところが、
『第10位、杉原さん』
あれ?
10位?
『賞品として発泡酒1ケースです』
やったー。
あれ?
今回車で来たから良かったものの、案内状には「なるべく公共交通機関をご利用下さい」って書いてあった。
電車で来てたら、持って帰るのが大変でした。
更に、女性で唯一の完漕者として、妻も表彰されました。
とても大変なレースでしたが、想い出に残る大会になりました。
これがキッカケで更にカヤックにハマり、空気で膨らませるカヤックを購入し、いろんな所へ行っています。
霞ヶ浦、隅田川、江ノ島、精進湖、葉山・・・
昨日は代休を取って本栖湖へ行ってきました。
ところが帰りに台風の影響で山梨県大月辺りで豪雨に襲われ、あまりに凄かったので動画を撮って日テレに投稿したら、インタビュー付きでニュースZEROで放送されていましたw
話が少しそれましたが、カヤックは水面を散歩しているみたいでとても楽しいです。
是非オススメです。